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東京地方裁判所 平成11年(モ)11564号 決定

別紙当事者目録記載のとおり

主文

相手方(本案事件原告)は、平成一一年(ワ)第九五四〇号損害賠償請求事件の訴えの提起について、申立人(本案事件被告)らのための共同の担保として、この決定の確定した日から一四日以内に、三〇〇〇万円の担保を提供せよ。

理由

第一申立の趣旨

相手方は、申立人らのために、平成一一年(ワ)第九五四〇号損害賠償請求事件の訴えの提起について、相当の担保を提供せよ。

第二事案の概要

一  申立人らは、株式会社八千代銀行(以下「八千代銀行」という。)の取締役と同行の取締役であった戸田沢和男の相続人であり、相手方は同社の株主である。本件は、相手方が、申立人らに対し、八千代銀行に対する損害賠償を求める本件本案訴訟(株主代表訴訟)を提起したところ、被告である申立人らが、右訴えは悪意によるものであるとして、原告である相手方に相当の担保を提供するように命ずる裁判を求めた事件である。

二  本件本案事件における原告の主張の骨子

1  八千代銀行は、平成八年一〇月一日から同九年九月三〇日までの間に、株式会社タケダ(以下「タケダ」という。)に対して一五億二〇〇〇万円を貸し付けた。その際、八千代銀行は、タケダの専務取締役武田辰雄所有の土地建物、タケダの代表取締役武田信雄所有の土地建物にそれぞれ極度額八〇〇〇万円の根抵当権を設定した(以下「本件各担保」という。)。

被告槇田、同新納、同清水、同石川、同柿沼、同藤山、同安達、同小泉及び戸田沢和男は、右貸付時に、八千代銀行の取締役としてその融資業務において決定をする立場にあった。

2  八千代銀行は、平成九年一〇月一日から同一〇年九月三〇日までの間に、タケダに対して、一三億六九〇〇万円を無担保で貸し付けた(右貸付けと前記1の貸付けをあわせて「本件各貸付け」という。)。

被告槇田、同新納、同石川、同柿沼、同藤山、同安達、同小泉、同方波見、同星及び戸田沢和男は、右貸付時に、八千代銀行の取締役としてその融資業務において決定をする立場にあった。

3  タケダは、平成一一年二月一四日、解散決議を行い、現在は特別清算手続中であり、本件各担保からも回収見込みはなく、本件各貸付債権は回収不能となった。

4  本件各貸付けは、タケダが実質的には倒産状態であり回収の見込みが全くないにもかかわらず、十分な担保を取らずに又は無担保で実行されたものであり、本件各貸付け当時に融資を決定した取締役である被告ら及び戸田沢和男には善管注意義務違反がある。

5  戸田沢和男は、平成一〇年一月二〇日に死亡し、被告戸田沢千枝子、同戸田沢隆史及び同戸田沢誠二が相続した。

6  よって、八千代銀行の株主である原告は、商法二六七条に基づき

(一) 被告槇田、同新納、同清水、同石川、同柿沼、同藤山、同安達、同小泉、同戸田沢千枝子、同戸田沢隆史及び同戸田沢誠二は、八千代銀行に対して、連帯して、一五億五二〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 被告槇田、同新納、同石川、同柿沼、同藤山、同安達、同小泉、同方波見、同星、同戸田沢千枝子、同戸田沢隆史及び同戸田沢誠二は、八千代銀行に対して、一三億六九〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え

との判決を求める。

第二当裁判所の判断

一  裁判所の認定した事実

1  B山設計による和議申立て及び財産隠匿行為

(一) C川カントリー倶楽部ゴルフ場(以下「本件ゴルフ場」という。)を運営する株式会社B山設計(代表取締役D原春夫、以下「B山設計」という。)及びB山設計の一〇〇パーセント子会社でB山設計からC川カントリー倶楽部ゴルフ場の運営委託を受けていた株式会社C川カントリー倶楽部(代表取締役D原春夫、以下「C川カントリー倶楽部」という。)の両会社は、平成八年七月一日、東京地方裁判所に和議の申立てをした。八千代銀行は、同ゴルフ場の建設資金の一部をB山設計に対して融資し、約七〇億円の債権を有するメインバンクの地位にあった。

(二) B山設計は、金融機関から融資を受けるに当たって、ゴルフ場用地については、その全部を担保に提供する約束をしていたにもかかわらず、和議申立直後の平成八年七月五日、ゴルフ場の進入路など、通行妨害がされれば本件ゴルフ場の営業自体が不可能となるような重要な部分に当たる一部の土地一三筆につき、株式会社E田(代表取締役A田夏夫)に対して「真正な登記名義の回復」(なお、《証拠省略》の土地についてのみは「代物弁済」)を原因とする所有権移転登記をし、E田は、八千代銀行をはじめとする債権者に対し、「ゴルフ場用地の重要な部分は押さえた」として、B山設計の申し立てた和議に同意するよう強要した。

一方、B山設計及びC川カントリー倶楽部は、和議申立直前の平成八年五月二七日付で、株式会社C川ゴルフクラブ(代表取締役B原秋夫以下「C川ゴルフクラブ」という)に対し、C川カントリー倶楽部ゴルフ場の運営を委託する業務委託契約を締結した。また、前記一三筆の土地について所有権移転登記名義人となったE田は、平成九年二月二六日、B山ゴルフクラブを権利者とする地上権設定登記を右各土地にした。B山ゴルフクラブは、三重県久居市に本店を置いていた株式会社C山観光が、平成八年六月二八日、C川カントリー倶楽部ゴルフ場の所在地である茨城県常陸太田市《番地省略》に本店移転の登記をし、平成八年七月五日、会社の商号、目的を変更し、B原秋夫が代表取締役に就任した会社であり、B山設計の和議申立直前に本件ゴルフ場の運営主体であるかのような体裁を整えたにすぎない会社である。C川ゴルフクラブの代表取締役に就任したB原秋夫は、「株主代表訴訟アドバイザー、行政・企業の不正ウォッチャー、三井鉱山訴訟・最高裁勝訴第一号」と記載された名刺を使用していた。

(三) 八千代銀行をはじめとする債権者は、前記のような債権者を害する行為をしているB山設計の和議には同意できないとして、和議申立ての却下を求める上申書を東京地方裁判所に提出し、その後、B山設計とC川カントリー倶楽部は、和議申立てを取り下げた。

2  八千代銀行によるB山設計に対する破産申立て及びこれに対する妨害行為

(一) 八千代銀行は、平成九年三月二七日、他の債権者とともに、B山設計に対する破産申立てをし、同日、他の債権者がC川カントリー倶楽部に対する破産申立てをした。八千代銀行による破産申立ての直後である平成九年四月三〇日、D野冬夫は、B山設計が本件ゴルフ場用地として賃借していた土地の一部について、売買を原因とする所有権移転登記を受け、同年五月九日、D野冬夫は、八千代銀行の当時の頭取であった被告槇田の自宅に、①B山設計は、右土地を無断でC川ゴルフクラブに転貸し、破産の申立てを受けたが、このような行為は賃貸人との間の信頼関係を破壊するものであり、契約条項に反するので、五月八日、賃貸借契約を解除した、②右土地については、今後、賃貸借契約、転貸、譲渡等の意思を有しない、という通知書を送付した。

D野冬夫は、八千代銀行の株主であった株式会社E川住宅の代表取締役であるとともに、後記3(一)認定のとおり、原告に対して八千代銀行の株式を譲り渡した人物である。

(二) A原松夫及びB川竹夫を代表者とするC川カントリー倶楽部の「会員の権利を守る会」が平成九年六月に発足し、同会は、同年七月に東京地方裁判所に対して会員権擁護に関して八千代銀行ら債権者の具体的な文書を徴求した上で破産手続を進めることを求める上申書を提出した。右会の代表者の一人であるB川竹夫は、かつてB山設計及びC川カントリー倶楽部の監査役を務めていた者であり弁護士である。また、右B川竹夫は後記3(二)認定のとおり、原告が八千代銀行に対して被告らに提訴をするよう求めた際の原告代理人であった。

(三) B山設計及びC川カントリー倶楽部の代表取締役であるD原春夫は、平成九年七月二八日、被告槇田に対し、内容証明郵便による通知書を送付した。その通知書は「二、私の貴行の株主としての権利による調査によりますと、貴行は左のとおりの問題ある融資を実行しております。①貴行代々木支店における某顧客に対する問題ある融資、②貴行中板橋支店における某顧客に対する問題ある融資、③貴行相模原支店における某顧客に対する問題ある融資。三、大蔵省は、本年三月貴行に対する検査を実施したと聞き及んでおりますが、右検査にあっては一連の不正、違法融資問題が取沙汰されている世情を鑑みて、「総会屋」「暴力団関係者」らに対する問題ある融資の有無、実態等を報告することが強く求められたことと推察されます。そこで以下の質問に回答されるよう強く要請いたします。即ち貴行は右検査に際して、先に指摘した三事例の融資の実態を大蔵省に報告したか否か。四、仮に貴行が先に指摘した三事例の問題ある融資の実態を大蔵省に報告したと回答したのであれば、右融資に対する貴行の責任…誰が何時にどの様な内容、形態の責任を取ったのか、あるいは取る予定であるのか回答されたい。五、仮に貴行が先に指摘した三事例の融資の実態を大蔵省に報告をしたか否かについて、更に報告しなかったのであれば、今後どの様な措置を取られるのであるか回答をされたい。即ち監督機関である大蔵省等に対し、詳細な調査の実施要請、行政措置要請、捜査機関である検察庁、警察、国税庁等に対する捜査要請、刑事的措置要請、報道機関に対する調査、報道要請、他の株主らに対する貴行の責任追及の共同行動について検討致す所存であります。」との内容であり、八千代銀行から破産申立てを受けたB山設計の代表取締役であるにもかかわらず、前記のとおり倒産処理において八千代銀行ら債権者の利益を侵害する妨害行為をする一方で、株主として八千代銀行の違法融資問題を取り上げる姿勢を示す内容であった。しかし、D原春夫は株主ではなかったため、八千代銀行は、平成九年八月一日、D原春夫に対し、通知書の要請に回答する必要がない、との内容の回答書を郵送した。

(四) 平成九年八月一日、B山設計とC川カントリー倶楽部は、東京地方裁判所から破産宣告を受け、C川カントリー倶楽部の破産管財人に選任された鈴木銀次郎弁護士は、本件ゴルフ場の運営をパブリックゴルフ場として継続し、同日から、八千代銀行の職員である山本忠は、裁判所の許可を得て、破産管財人の事務補助者として本件ゴルフ場に派遣され、売上の管理、現金管理、裁判所への提出書類の作成等に従事していた。

ところが、平成一〇年二月五日午後二時頃、B山設計とC川カントリー倶楽部の代表取締役であるD原春夫、先に本件ゴルフ場の土地の所有権移転登記をB山設計から受けて同社の和議に対する同意を八千代銀行等の債権者に強要する行為をしたことがあるE田の代表取締役A田夏夫、和議申立直前に本件ゴルフ場の運営をB山設計等から受託したC川カントリークラブの代表取締役B原秋夫らは、突然本件ゴルフ場の事務所を訪れ、勤務していた八千代銀行の従業員である前記山本忠に対し、八千代銀行の従業員が本件ゴルフ場の管財業務に関与していることについて三名で大声を出しながら午後五時頃まで約三時間にわたって非難を続けた。その中で、B原秋夫からは「管財人は公平でなければならず、債権者側のあんたがきていることは、著しく公平を欠き納得できない。けしからん、あんたは早速本来の勤務先に戻りなさい。」、D原春夫からは「私も、今日から行動を開始する。八千代とは戦争をする。」「B川弁護士らと相談し、八千代に対し行動を起こす。」などの発言があった。

3  原告の株式取得から本件代表訴訟の提起に至るまでの経緯

(一) 先にB山設計が賃借している本件ゴルフ場用地について所有権移転登記を受けて被告槇田に対しB山設計との賃貸借契約を解除する旨の通知書を送付したことがあるD野冬夫は、平成一〇年三月一八日、自らが代表取締役を務める株式会社E川住宅が保有する八千代銀行の株式を原告とC原梅夫に一株ずつ譲渡した。

(二) C原梅夫は、その当時、株式会社D田の取締役であったが、株式会社D田は、八千代銀行のB山設計に対する融資について、その所有する建物及び株式会社D田の代表取締役が個人所有している敷地について根抵当権を設定し、平成八年五月九日、B山設計の八千代銀行に対する債務の返済に充てるために、敷地を任意売却し、同年八月八日に地上建物を取り壊している。

(三) 原告は、E山会議代表A谷一郎と連名で、平成一〇年四月二七日、八千代銀行本店及び被告槇田宅に公開質問書と題する書面を送付した。

右書面の中で、原告及びA谷は、タケダの八千代銀行からの平成九年度末の借入残高は五六億九五〇〇万円であるのに対して担保は約四億四〇〇〇万円に過ぎず、融資額に対する担保債権が一〇%未満にとどまり、八千代銀行のタケダに対する融資は不正融資であると主張した。

(四) E山会議は、同年五月六日から八日まで及び一一日から一五日まで、八千代銀行本店周辺でB海会、C林会議、政治結社D森会等の名を掲げた街頭宣伝車を用いて次のような内容の街頭宣伝活動を行った。「八千代銀行は、タケダに対して五六億九五〇〇万円を貸し出していながら担保はたったの四億四〇〇〇万円である。この厳しい貸し渋りの時代に八千代銀行はタケダに無担保で貸し与えている。これは商法に定めのある特別背任に当たる。」

E山会議は、同年五月六日から八日まで及び一一日から一五日まで、八千代銀行石神井支店周辺で前記と同様の街頭宣伝車を用いて、「八千代銀行とタケダが結託して農家の人を騙し、八千代銀行から融資を受けさせタケダがマンションを建てている。」という内容の街頭宣伝活動を行った。

E山会議は、同年五月九日及び一〇日に八千代銀行頭取の被告槇田宅周辺で、同月一〇日に八千代銀行会長の被告新納宅周辺で、いずれも前記と同様の街頭宣伝車を用いて、「被告新納と被告槇田の共有土地を都内のマンション業者に売却し多額の利益を得るなど八千代銀行は悪徳銀行である。」という内容の街頭宣伝活動を行った。

東京地方裁判所は、同年五月一九日、八千代銀行、被告新納及び被告槇田の申立てにより、E山会議代表ことA谷に対して、八千代銀行本店、同行石神井支店、被告槇田宅及び被告新納宅を中心とする半径三〇〇メートルの範囲内で、街頭宣伝活動等の車両に乗り、拡声器等を用いて大声を張り上げ、又は、テープを放送したり音楽を発することによって八千代銀行らを誹謗中傷する一切の行為を禁止する仮処分決定をした。

(五) 原告は、同年五月七日、警視庁に対して、平成五年一〇月一日から同九年九月二〇日までの間の八千代銀行のタケダに対する融資額が回収不能になったのは会社に対する特別背任罪に当たるとして、被告槇田を告発した。

(六) 平成一〇年六月二三日から六月二六日にかけて「A山新聞」と題する印刷物が、八千代銀行本店前、西武池袋線石神井公園駅前、小田急線町田駅前等において配布され、その内容は、「過剰融資! 無担保融資!」、「タケダへの異常な融資のナゾは? 社長に乗り込んだ八千代クレジットサービス社長 手土産一〇億円の噂」、「タケダがつぶれれば八千代だって危うくなる!」などの大見出しを掲げ、八千代銀行のタケダに対する融資を不正融資として取り上げ、八千代銀行及びその役員を誹謗中傷する記事を掲げる内容であった。A山新聞の配付は、配付当日の六月二六日に配付場所の一つである八千代銀行の本店の会議室で定時株主総会が開催されたことから、これに対する示威活動であったと認められる。

(七) 平成一〇年六月二六日の八千代銀行の定時株主総会には、D野冬夫から同年三月一八日に株式を譲り受けたばかりの原告及びC原梅夫が出席し、原告は、「タケダとの取引は商法の特別背任に当たるので警視庁に告発しているが、八千代銀行としてはどのように対処するのか。」、「タケダへの融資は不良債権なのか、優良債権なのか。」などの趣旨の発言をし、C原梅夫は、「タケダとの関係がいろいろと噂されているが事実か。」、「新しく監査役に選任される者は今まで取締役の任にあったが、このような者が監査役に就任して、仮に株主代表訴訟が提起された場合に厳格な調査ができるのか。」などと、それぞれタケダへの融資問題について質問を行った。

(八) 平成一〇年一一月四日から一一月九日までの連日、「天地風水(平成一〇年一〇月号)」と題する印刷物が、八千代銀行石神井支店前など十数箇所において大量に配布されたほか、八千代銀行の役員らに郵送されたが、その内容は、被告槇田を誹謗中傷するほか、タケダへの融資を特別背任不正融資と非難する内容であり、平成一〇年五月七日に株主が八千代銀行のタケダに対する不正融資の件で警視庁に告発したとして、原告の行った告発についても記載している。

次いで、平成一〇年一二月七日から一二月一七日まで、土・日曜日を除き連日、「天地風水(平成一〇年一一月号)」が、八千代銀行本店付近、東京地方裁判所前など九箇所で、大量に配布されたほか、八千代銀行の役員、従業員らに郵送された。その内容は「八千代銀行頭取槇田家和警視庁告発」と赤色の大見出しで記載し、原告が行った告発の内容を全面的にかつ詳細に取り上げ、四月二七日付で原告とE山会議が八千代銀行に送付した公開質問書の内容の一部及び八千代銀行が右公開質問書への回答として原告に対して送付した五月一五日付回答書の内容の一部が記載されているほか、原告が六月二六日の株主総会で行ったタケダに対する融資の責任を追及する質問に対する応答内容を記載し、八千代銀行がタケダに対して行った融資が不正融資であるとして追及する内容となっている。

(九) 「天地風水(平成一〇年一一月号)」が東京地方裁判所前で配布されているさなかの平成一〇年一二月九日、東京地方裁判所において、B山設計及びC川カントリー倶楽部の破産事件について、債権者集会が開催され、D原春夫、B原秋夫、A田夏夫、C原梅夫のほか右両会社の監査役で顧問弁護士でもあったB川竹夫が出席し、八千代銀行を非難する発言を行った。

(一〇) E山会議は、同年一二月一二日、一三日及び一九日から二一日まで、八千代銀行元取締役大熊昶宅周辺で「八千代銀行は一企業に無担保で大口融資を行った。」という内容の街頭宣伝活動を行った。

東京地方裁判所は、一二月二八日、八千代銀行及び大熊昶の申立てにより、E山会議代表ことA谷に対して、大熊昶宅を中心とする半径三〇〇メートルの範囲内で、街頭宣伝車等の車両により、拡声器等を用いて大声を張り上げ、又は、テープを放送したり音楽を発することによって八千代銀行及び大熊昶を誹謗中傷する一切の行為を禁止する仮処分決定をした。

(一一) 原告はB川竹夫を代理人として、平成一一年一月二二日、八千代銀行監査役に対して、本件各貸付けを決定した被告らに善管注意義務違反があるとして被告らに損害賠償訴訟を提起するよう求める「商法二六七条一項による請求」と題する書面を八千代銀行監査役に送付した。

(一二) E山会議は、平成一一年一月二二日、八千代銀行の元取締役に、右「商法二六七条一項による請求」と題する書面の写しと、次の内容の文書を送付した。

① E山会議は、貴行の株主の協力を得て、被告槇田、同方波見、酒井勲、大熊昶による八千代銀行の私物化の追及活動をしてきた。

② 被告槇田らは、タケダに対する違法融資等を実行してきた。

③ 貴行は、タケダの株主であり、人を送り込んで違法融資を繰り返し、融資残高の七五%を償却した。

④ 今後、八千代銀行が地域経済に寄与し、健全な金融機関として再生するためには被告槇田ら四人の退陣が必要である。

⑤ それでも、被告槇田が旧態依然の経営方針を貫くのであれば、不退転の決意でもって、今まで以上に厳しい指摘・追及及び関係官庁に対する抗議、そして法的手続をもって責任追及して行く。

⑥ 平成一一年一月二二日付で「商法二六七条一項による請求」を八千代銀行監査役に送付した。

(一三) 原告、C原梅夫及びD原春夫は、平成一一年八月五日、連名で東京地方検察庁に対して、八千代銀行の取締役である被告槇田、同新納、同藤山及び同星を被告発人として、平成九年三月頃から平成一〇年七月頃までの間の八千代銀行のタケダに対する融資が回収不能となったのは会社に対する特別背任罪に当たるとして、告発した。

二  原告の悪意の有無についての判断

前記認定の事実を総合すれば、本件株主代表訴訟が提起された経緯及び目的は、C川カントリー倶楽部ゴルフ場を運営するB山設計が申し立てた和議事件について、メインバンクであった八千代銀行が、和議に同意をしないで同会社の破産申立てをしたことから、同会社の倒産に際して、和議手続を進めるかたわらで債権者から財産を隠匿し、不正な利益を確保しようとしていたB山設計の代表取締役D原春夫の目論見が実現するに至らなかったため、D原春夫、B川竹夫、B原秋夫、A田夏夫、C原梅夫、D野冬夫らが原告と共謀の上で、八千代銀行に対する誹謗中傷活動を行って八千代銀行に対しその意趣を返し、また、B山設計の破産手続の進行を妨害しようと企てた過程で、タケダに対する回収が困難となった不良債権を八千代銀行が抱えていることを知ったために、八千代銀行に対する誹謗中傷活動の一環として、警視庁及び東京地方検察庁に対する告発を行うとともに、原告が八千代銀行の株式をD野冬夫から取得して、本件本案訴訟を提起したものと認めることができる。

なお原告は、本件担保提供命令申立事件における審尋において、原告とB山設計、C川カントリー倶楽部との関係が不明確であり、また、原告と街宣活動、怪文書の関係が立証されていないと主張するが、前記一で認定した諸事実、とりわけ、①B山設計の代表者であるD原春夫と原告が連名で被告らを告発していること(一の3(一三))、②原告が一の2(一)の行動(これは八千代銀行の破産申立てに対する妨害行為と見ることができる。)を行ったD野冬夫から八千代銀行の株式の譲渡を受けたこと(一の3(一))、③破産手続きに対する妨害工作を立案した中心人物と考えられる(一の2(二)、(四)、3(九))B川竹夫が原告の八千代銀行に対する提訴請求について原告の代理人となっていること(一の3(一一))、④原告は、八千代銀行及びその取締役らに対する街頭宣伝活動禁止の仮処分命令を二回にわたって東京地方裁判所から受けているE山会議(ことA谷一郎)と連名で八千代銀行及び被告槇田宅に公開質問書を送付したこと(一の3(三))、⑤原告の八千代銀行の株式取得時期(平成一〇年三月一八日)から僅か一か月余りを経過した同年四月二七日に原告は④の公開質問書を発していること等の諸事実から原告の前記の者らとの共謀関係を認定することができる。

そうであるとすれば、本件本案訴訟は、八千代銀行に対する意趣返し及び同銀行の申立てにかかるB山設計の破産手続の妨害の目的の下に八千代銀行及び役員を誹謗中傷することを意図したもの、すなわち、株主権を濫用して八千代銀行及び被告ら八千代銀行の取締役を困惑させることのみを目的として提起された訴訟であると認めるのが相当であり、したがって、本件本案訴訟の提起は、商法二六七条六項によって準用される商法一〇六条二項にいう悪意によることの疎明があるものということができる。

三  担保の額

申立人らに予想される損害等を勘案すると、本件において相手方に提供を命ずべき担保の額は、被告一三名に対する共同の担保として三〇〇〇万円と定めるのが相当である。

四  結論

よって、本件申立ては理由があるから認容し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 菅原雄二 裁判官 小林久起 松山昇平)

〈以下省略〉

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